「東洋医学×分子栄養学」を提唱している島田です。
今回は、鍼灸学校の学生さん向けに書きました。
勉強の仕方次第で、もっと楽しく「生理学」が学べるというお話です。
この記事は、次のような方に読んでほしいです。
- 鍼灸学校で生理学を学んでいるけど、あまり楽しくない
- 生理学が鍼灸治療にどう役立つのかわからない
- もう鍼灸師として働いているけど、生理学の活かし方を学んでみたい
- 鍼灸学校の学生(または鍼灸師)で、分子栄養学に興味がある
ちょっと長い前置き(笑)
わたしは、5年ほど前から「分子栄養学」という学問を勉強し始めました。
これがとにかく面白いんです!
なぜかというと、漢方薬の処方が法律的にできない日本の鍼灸師でも、薬を使わずに患者さんを治せるようになるからなんです。
世界中どこを見ても鍼灸と漢方はセットになっているべき治療方法で、東洋医学のなかの基本です。
それに、ほとんどの医療(洋の東西、新旧を問わず)は、投薬が中心になっていますよね。
なのに日本では、東洋医学の中心的な治療方法である漢方薬はほとんど東洋医学を知らない医師(もちろん詳しい先生がいることは知っていますが…)が処方し、湯液治療が使えないはり師ときゅう師という不思議な資格ができあがっているわけです。
そこで、漢方薬の代わりに分子栄養学を鍼灸と組み合わせることで、治療効果は上がるし、再発もしづらいステキな医療ができあがります。
もしかすると、世界に誇るべきメソッドになっちゃうかもしれません。
これはなるべく早く身に付けたほうが良いと思います。
ちょっと興味が湧きましたか?
この分子栄養学の勉強の過程では、じつは生化学の知識が必要になります。
特に「代謝」。
これって、鍼灸師は学生時代に「生理学」の中で勉強していることなんですよ。
ただし、純粋に生理学として学ぶと、あまり面白く感じられない。
かくいう私も学生時代はそうでした(笑)
そこで、「いまの私が学生時代の過去の私にアドバイスする」という形で、少しポイントを書いていきたいと思います。
これうまくいったら、シリーズ化したいなぁ(笑)
解糖系の栄養学的な意味
解糖系って習いましたよね。
皆さんの学んでいる『生理学』(東洋療法学校協会編)の記述です。
短いのでその部分をちょっと引用しましょう(読みやすいように改行しました)。
細胞がグルコース(ブドウ糖)を分解してエネルギーを取り出す過程は、細胞がO2を取り入れてCO2を出すので内呼吸という。
まず、グルコースは細胞質内で酵素の働きによって、ピルビン酸となる。
このO2を必要としない過程を解糖という。
ピルビン酸はミトコンドリアの中に取り込まれ、酵素の働きによってO2と反応する。
細胞質内で起こる解糖とミトコンドリア内でO2の供給下で起こる反応系を併せて内呼吸という。
(生理学第2版、医歯薬出版、P.8より)
どうですか?
思い出しましたか?
この部分で、「グルコースは細胞質内でO2を必要としないでピルビン酸になる」と書いてあるんですけど、これを解糖系といいますね。
ピルビン酸が、ミトコンドリア内のクエン酸(TCA)回路に入り、その後に電子伝達系でたくさんのATPをつくるんです。
このミトコンドリア内の2つの反応系はO2を必要とします。
これも教科書の後の方で出てきます。
つまり、糖(糖質のことね)は酸素がなくてもエネルギーになるってことですね。
ここを実際に即して解釈すると、こんな感じです。
貧血(=酸素を全身に運びにくい状態)だと、酸素を必要としないエネルギー(ATP)の産生方法として解糖系を使いたくなる(というより使わざるを得ない)、ということになります。
だから、貧血傾向にあるエネルギー不足の(つまり「疲れやすい」)人は、手っ取り早く酸素がなくてもエネルギーになる甘いモノ(糖質)が欲しくなっちゃうんです。
これってつまりはカラダからの欲求ですね。
逆にいうと、甘いモノ好きを治すには貧血を解消しないといけないってことになります。
日本人の閉経前の女性の9割は鉄が足りなくて貧血だっていわれているんですから、そこへのアプローチ(食事指導が中心)が大事になりますよね。
ここでもう少し掘り下げてみましょう。
貧血を治すために必要なこと
貧血になる原因は、赤血球の作られる量が少ないか、壊れる量が多いか、あるいは不良品の赤血球が多いか、です。
壊れる方については、ここでは触れないでおきます。
赤血球を作るのに必要なものは、タンパク質、コレステロール、鉄、ビタミンB6、B12、葉酸、ビタミンAなどたくさんあります。
これらの栄養素が足りないと、不良品ができてしまいます。
必要な栄養素のなかでも鉄は、とても大事なもののひとつですね。
鉄欠乏性貧血だったら、鉄を多く含む食べ物を摂るようにアドバイスしたいです。
でもここで、ひとつ大切な問題があるんです。
鉄はミネラルです。
ミネラルは基本的に吸収が悪いというのが、栄養学の常識。
教科書にも書かれているので、引用してみます。
胃液は一般に無色透明で、1 日に1〜3l 分泌される。
胃液のp H は1〜2で、強い酸性である。
胃液の主成分は塩酸(HCI)、消化酵素、ムチンである。
そのほか各種電解質やビタミンB12の吸収に必要な内因子を含む。
(生理学第2版、医歯薬出版、P.74より)
つまり胃液の分泌や胃の動きが悪ければ、ミネラル類の吸収が悪くなるんです。
このことから、「鉄の吸収を良くするなら、胃の状態が良くなければならない」ということになりますね。
そう聞くと、とりあえず「胃の六つ灸」とかやりたくなりますね(笑)
実際、胃の悪い人は胃の裏側のこの辺りが張っていることが多いですからね。
ミネラルの吸収にとって大切な、胃酸のセルフチェック法や胃酸を助ける食べ方などについては、過去のの記事も参考にしてください。
以上をまとめると、 甘いモノ好きの貧血傾向にある女性への食事指導は、鉄分を多く含むレバーなどを摂るだけでなく、胃酸の出が良くなるような食事の仕方をアドバイスする必要があるということです。
例えば、よく噛んだり、食前に酸味のものやパセリ、ミントなどを食べたりすることですね。
何より、リラックスして(副交感神経優位の状態)食べることが大切です。
消化管の動きや消化液の分泌は、副交感神経によって促進されるわけですから。
もうちょっと関連する部分を教科書から拾ってみましょう。
貧血とは、血液全体に含まれる赤血球あるいはヘモグロビン量が減少した状態とそれに伴う症状をいう。
血液中のヘモグロビンの量は粘膜、結膜、皮脂、 爪の色に反映される。
したがって眼険の結膜や口腔粘膜の色は貧血の指標となる。
組織中の酸素不足による倦怠感のような全身症状と酸素不足を代償するために頻脈などの症状が出てくる。
貧血は血液が大量に失われた場合や、赤血球の生成から破壊までの過程に何らかの障害があるために起こる。
たとえば、① 栄養不足(鉄、ビタミンB12、葉酸、タンパク質の不足など)、② 骨髄の障害(白血病など)、③ 溶血、④ エリスロポエチンの分泌障害などが貧血の原因となる。
(生理学第2版、医歯薬出版、P.19より)
この部分もとても臨床の参考になります。
貧血を治す前に、まずは貧血かどうかを判断しなければなりませんから。
その際に、粘膜、結膜、皮脂、爪の色を確認する必要があるということがわかります。
脈診の際に、指の爪の色を確認しつつ、頻脈(数脈)がないかも診てみましましょう。
ついでに、鉄欠乏の指標にもなるスプーンネイル(匙状爪)もチェックしておきましょう。
これって、臨床的には意外によく見られますよ。
特に出やすいのは、利き手の親指です。
舌診の際には、一緒に口腔粘膜の色も確認するべきですね。
じつは、貧血の場合には舌裏の静脈がほとんど見えなくなります。
問診で、全身倦怠感の有無の確認も大切です。
さらに、食事内容を具体的に聞いてみましょう。
そこから、動物性タンパク質や、野菜類、鉄分の摂取状態の判断もとても大切です。
例えば葉酸は、野菜類を普通に摂っていれば不足することはまずありません。
教科書にはありませんが、鉄不足の人は氷などの硬いものをかじりたくなるようです。
こんな感じです。
どうですか?
少しは楽しくなってきましたか?
生理学も鍼灸の臨床や栄養指導に直結していることがよくわかりますよね。
この先の勉強も、こんな調子で頑張ってください!
ちょっと長くなったので、今回はここで終わります。
続きは次回をお楽しみに。
いかがでしたでしょうか?
分子栄養学を学んでみたくなりましたか?