あちこちで「グルテンフリー」という言葉を耳にするようになりました。
グルテンフリーにしたらテニスのジョコビッチのようになれる、と思い込んでいる人もいるようです。 何だかカラダに良いらしいので、理由はわからないけど何となく小麦製品を避けている人も多いように感じます。
そこで今回は、「小麦やグルテンが健康にとって本当に悪いものなのかどうか」について書いてみました。
この記事は、次のような悩みを抱えている人に向いています。
- 小麦がカラダに悪いのかどうか不安
- 毎日パンを食べていても良いのかどうかわからない?
- グルテンアレルギーについて知りたい
- なぜ小麦を食べるとカラダに悪いかを知りたい
- 『小麦は食べるな』を読むべきか悩んでいる
さあ、しっかり小麦・グルテンについて勉強していきましょう!
小麦・グルテンは本当に健康に悪いのか?
いつものように、はじめに結論から書きましょう。
・グルテンは確かに消化しにくいタンパク質の一種
・小麦を食べても良いのかどうかは、人によって違う
・グルテンアレルギーやグルテンに過敏な人は、おそらく1割未満
・遺伝子組み換え小麦は、血糖値を上昇させる作用が古代の小麦よりも高い
・小麦がすべての病気の原因とはいえない
確かに小麦やグルテンに対してアレルギーや過敏な人は一定数いるようです。
ですけど、「小麦だけが悪者というのは、ちょっとどうなの?」というのが今回の結論。
つまり、「とりあえず小麦を避ければ健康になる」というわけではないんです。
その理由について、ジックリと見ていきましょう。
小麦の何がどう悪いのか?
そもそも、
・グルテンとは何なのか?
・どうしてカラダに悪いのか?
まずは、そのあたりについて見てみましょう。
小麦ひとくちメモ
はじめに、ちょっと小麦についても知っておきましょう!
小麦の部位
・胚乳:小麦粒の約83%で、主成分は糖質(でんぷん)とタンパク質。
・表皮(小麦ブラン):小麦の約15%で、「ふすま(ブラン)」と呼ばれています。
食物繊維、鉄分、カルシウムを豊富に含んでいます。
・胚芽:やがて芽となって成長する部分。
たんぱく質、脂質、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6など 各種ビタミン・ミネラルを含んでいます。
小麦の栄養成分
・エネルギー:白米よりもやや多く100gあたり約370kcal
・炭水化物:成分の67~75%が炭水化物(でんぷん)で、生命維持に必要なエネルギー源
・タンパク質 6~14%がタンパク質ですが、必須アミノ酸のひとつリジンが不足しています。 肉類や卵とともに摂ることによってバランスの良い栄養になります。
・脂質: 小麦粉には1〜2%ですが、胚芽部分には10%前後も含まれています。 必須脂肪酸やビタミンEが豊富です。
・ビタミン・ミネラル類: B1 、B2 、E、パントテン酸、ナイアシンなどのビタミン、リン、カルシウム、鉄、カリウム、ナトリウム、マグネシウムといったミネラル類などが含まれています。 ただ、量的には少ないので、小麦粉だけで所要量をみたすことはできません。
グルテンってなに?
日本語では麩質(ふしつ)ともいいます。
グルテンは、小麦を代表とする穀物に含まれる分解されにくい(難消化性)タンパク質の一種です。
簡単にいうと、「小麦の生地を洗ってデンプンを取り除いたときに残る、ゴム状のタンパク質の塊」のことです。
もちろん、タンパク質はカラダにとってとても大事な栄養素です。
タンパク質の主な働きを挙げておきます。
- 皮膚・毛髪・爪をつくる
- 骨・歯・筋肉をつくる
- 内臓をつくる
- 血管・血液をつくる
- 酵素・ホルモンをつくる(カラダの代謝に関係)
- 抗体をつくる(免疫に関係)
いかに大切かが、わかってもらえましたか?
タンパク質の消化は大変!
少し脱線してしまいますが、大切なタンパク質についてもう少し説明します。
食べたタンパク質は、消化酵素という名のハサミで細かく切られます。
そして、最終的にはアミノ酸に分解されて、吸収されます。
このタンパク質を細かく消化するハサミ(消化酵素、ペプシンやトリプシンなど)自体も、アミノ酸でつくられています。
結果的に、タンパク質が不足している人ほど消化酵素も足りなくなって、タンパク質を消化しにくくなるという悪循環に陥ります。
じつに困った話ですね。
だからこそ、タンパク質をしっかり摂る必要があるわけです。
グリアジンとグルテニンでグルテン
グルテンはグルテニンとグリアジンというタンパク質で構成されています。 これらの小麦の貯蔵タンパク質は、小麦、ライ麦、大麦に含まれています。
グルテニンとグリアジンに水を加えてこねると、これらがつながりあってグルテンを形成します。 グルテニンは弾力に富んでいるけれど、伸びにくい性質。 逆に、グリアジンは弾力は弱いけれど、粘着力が強くて伸びやすい性質です。
パンやうどんの歯ごたえや食感は、このつながりによるものです。 ちなみに、そばの「つなぎ」もこの小麦粉の特性を利用したものでです。
グルテンアレルギーのこと
グルテンをできるだけ控えたほうがいい状態を、大きく3つに分けることができます。
この分類は、WGO(World Gastroenterology Organisation:世界消化器内科機構)のグローバルガイドラインによる分類です。
・セリアック病
・小麦アレルギー
・非セリアックグルテン過敏症
それぞれについて、簡単に説明します。
セリアック病
近年、グルテン摂取によって体調を崩す人が欧米を中心に増加しています。
西欧諸国での有病率は、人口の約1%とされています(WGO)。
日本での正確な有病率を示す論文は出ていませんが、そういう意味でも非常に稀な病気といえるでしょう。
セリアック病は、摂取したグルテンが免疫系を刺激して抗体を産生し、この抗体によって小腸粘膜がダメージを受けて、栄養の吸収に支障が生じてしまうという自己免疫疾患です。
生涯ずっとグルテンフリーの生活をする必要があります。
セリアック病の症状としては、下記のようなものが代表的です。
- 慢性下痢
- 原因不明の体重減少
- 鉄欠乏性貧血
- 腹痛と腹部膨満
- 倦怠感
- 浮腫
- 骨粗鬆症
小麦アレルギー
さまざまな小麦タンパク質に対する有害な免疫反応です。
アレルゲンへの経路と免疫学的メカニズムに応じて、次の4つのカテゴリーに分類されます。
- 皮膚、胃腸または気道に影響を与える古典的な食物アレルギー
- 運動誘発性アナフィラキシー
- 職業性喘息(パン屋の喘息)と鼻炎
- 蕁麻疹
(非セリアック)グルテン過敏症(グルテン不耐症)
セリアック病と小麦アレルギーが除外された場合に、グルテンフリーダイエットで胃腸症状やその他の症状が解消した人は、ここに分類されます。
遅延性のアレルギーなど「すぐにひどい症状が起こるわけではないけれど、小麦を食べるとなんとなく調子が良くない」という人は、かなりの数にのぼるといわれています。
グルテン過敏症(またはグルテン不耐症)の代表的な症状を挙げておきましょう。
- 気分が悪くなる・痙攣する・胃の痛み
- 膨満感
- 肌の乾燥
- 意図せずに体重が減少
- 集中できない
- 気分の落ち込み
- 1週間以上続く排便の変化
- ブレインフォグ(脳の霧)
- 疲れていて昼寝が必要
試しに2週間ほどグルテンを抜いてみて「調子が良くなった」という人は、小麦に弱い体質である可能性があります。
その場合は、小麦を使っている食材などと距離を置くのもひとつの方法ですね。
『ジョコビッチの生まれ変わる食事』
グルテンフリーをしようと思うキッカケにもなる本かもしれませんので、内容を概説しましょう。
ジョコビッチは、グルテン不耐症だと書かれています。
彼が試合中に倒れたのをたまたまテレビで見ていた栄養学者のセトジェビッチ氏が、見抜いたんだそうです。
どうやら最初のチェック方法は血液検査などではなく、キネシオロジーだったようです。
その後の血液検査で、小麦と乳製品に対してアレルギーがあることがわかりました。
彼の両親が当時ピザ屋さんをやっていた、というのは皮肉な話ですね。
その後、彼は2週間、グルテンを含む食べ物を一切口にしないで過ごしました。
すると、それまでずっとあった鼻詰まりもカラダのだるさもなくなり、カラダにエネルギーがみなぎったといいます。
そして2週間後、ベーグルを食べるよう指示され、再び二日酔いのような症状が出現したのです。
彼は結果的に、グルテンを避け、最高のパフォーマンスのカラダを手に入れて、世界No.1テニスプレーヤーとしていまも君臨しています。
『小麦は食べるな!』
小麦は食べるな!/Dr.ウイリアム・デイビス著 / 白澤卓二訳
こちらも、読むと小麦を食べたくなくなる本なので、簡単に解説します。
原題は“Wheat belly”、これは「小麦の腹」という意味で、“belly”は下腹部の脂肪などを指すときによく使われる単語です。
小麦について、とにかくネガティブな情報がまとめられている本です。
著者が「小麦は食べてはいけない」とする根拠は、主に以下の2点です。
・遺伝子組み換え技術で品種改良された現代の小麦は、血糖値を上昇させる作用が強い
血糖値が高い状態が続くと、インスリン抵抗性が増して、カラダを老化させてしまう傾向がある。
実際に血糖値が上昇することについては著者が検証済なので、これについては素直に信じていいようです。
ただし、遺伝子組み換えについての毒性を示す具体的なデータはいまのところないので、必ずしも遺伝子組み換えがすべて悪いのかどうかは、わからないとするべきかもしれません。
・ 現代の小麦には「グルテン」が多量に含まれているので、体内に入ることで精神疾患、糖尿病、肥満、心臓疾患、リウマチなどの原因になる
この点に関しては、グルテンを摂ったすべての人がアレルギーを起こしているわけではないので、そのまま信じていいかといわれれば、ノーと言わざるを得ません。
小麦・グルテンがカラダに与える影響とは?
次に、グルテンのカラダへの影響をまとめてみましょう。
消化に負担がかかる
上でも書いたように、「グルテンは、分解されにくいタンパク質」です。
ですから、消化しずらい食品であることは確かです。
小麦製品を食べる場合には、消化酵素がたくさん出るようになるべくたくさん噛むことが大切ですね。
栄養が吸収されにくい
上に挙げたセリアック病や、グルテンに対してアレルギーがあると思われる人は、栄養が吸収されにくくなる可能性があります。
それ以外の人は、グルテンを摂取しても特に問題ないと考えられます。
試しに2週間ほど小麦製品などをまったく摂らない状態にしてみて、体調に変化があるかみてみましょう。
もし体調が良くなれば、以後はグルテンを控えるべきです。
お腹の張りやむくみを引き起こす
パンを食べるとお腹が張るからといって、すべてをグルテンのせいにしてはいけません。
また、むくみの原因の多くは、グルテンというより小麦に含まれる炭水化物である可能性が高いです。
全粒穀物に含まれている食物繊維のメリットと比べて、デメリットが多いかどうかを冷静に判断すべきです。
エネルギーを供給する
小麦は炭水化物を多く含むため、エネルギー源として使われます。
グルテンまたは小麦を避けるグルテンフリーによって、小麦が含む他の栄養素を得られなくなる可能性はあります。
その栄養素の代表的なものは、鉄、ビタミンB群、食物繊維などです。
腸内環境を悪化させる
グルテンの影響で、腸内で炎症を起こしたり悪玉菌が優性になって、腸内環境が悪化します。
この場合も栄養の吸収がうまくいかなくなる可能性があります。
食欲増進効果および依存性
グルテンを構成する成分のひとつグリアジンが、脳内の中枢神経を刺激して食欲を増進させ、中毒性を生み出す働きがあるともいわれているようです。
そうすると、グルテンフリーはダイエットには良いのかもしれません。
ただし、中毒性から逃れてやめることができれば、です。
小麦の薬膳的傾向は?
最後に、東洋医学からみた小麦の薬膳的な傾向について書いておきます。
東洋医学では、小麦は「しょうばく」とよばれ、下記のような作用があるといわれています。
・五味:甘(酸、苦、甘、辛、鹹(塩味)の五味のなかでは甘味に属するということ)
・五性:微寒(少しカラダを冷やす性質があるということ)
・帰経:心、脾、腎(これらの臓に影響するという意味)
・作用:養心安神・潤肝除燥
つまり、心の状態を良くし、メンタルを安定させる働きがあります。
具体的には、動悸や不眠、めまい、健忘などを改善する傾向があります。
また、カラダの水分を補い、喉の渇きを止める作用などもあります。
小麦についての補足
世界の3大穀物のひとつである小麦に関して、グルテン以外にも知っておくべき大切なことがあります。 それらを簡単にまとめておきます。
古代小麦と品種改良
小麦は15000年前頃に栽培が始まったと考えられています。
そのままの品種が1900年初頭までは維持されてきたわけです。
ところが、現在私たちが食べている小麦は、様々な品種改良を加えられたものです。
その結果、古代小麦と比べて飛躍的に収穫量が伸び、特にグルテンの構造が大幅に変化したと言われています。
緑の革命
1940年代からアメリカで始まった「緑の革命」では、農業の生産性を上げることで飢餓を減らそうという目的のために、穀物類(主に小麦・トウモロコシ・稲)を品種改良して、新たに災害や干ばつに強い種を作りました。
小麦に関しては、1980年までに何千種もの新種が誕生しました。
現在、世界で作られている小麦の99%は、「緑の革命」以降に作られた品種だといわれています。
ポストハーベスト
ポストハーベストとは、輸入品の輸送中に収穫物が虫や環境の変化によってダメにならないように、収穫後にふりかけられる農薬のことです。
日本から海外へ農産物を出荷する際には、ポストハーベストをかけることが全面的に禁止されています。
しかし、日本へ輸入される農産物にポストハーベストをかけることは、禁止されていません。
日本の小麦の自給率は、わずか17%です(カロリーベース、20019年、農林水産省)。
ということは、私たちが食べている小麦のほとんどは輸入品だということです。
小麦を控えるべき理由は、こういうところにあるのかもしれません。
まとめ
今回の記事のまとめ
・ひとつの情報に振り回されて、視野を狭くしてはいけない
・食べ物にはメリットとデメリットがあるので、冷静に比較して決めるべき
・グルテンフリーをするかどうかを決める良い方法は、2週間だけ徹底的に摂らないで体調を観察すること