在宅緩和ケアの現場で鍼灸の可能性を感じたときの話

東洋医学×分子栄養学

僕はどうも最近、鍼灸界では「分子栄養学の人」だと思われているようです(笑)

それはそれでとっても嬉しいんですけど、僕にもいろいろなバックグラウンドがあるので、今回はそんなことについて書いてみようと思います。

在宅鍼灸と出会った経緯

僕は、鍼灸師の資格を取った後に教員資格を取るコースに進み、そのまま母校の教員になりました。

そこではカリキュラムの改訂に取り組んだり、医療面接(いちばん最初に鍼灸臨床向けに出版された『医療面接』の本を分担執筆しています)を教育に導入したりしました。

2002年に退職した後、3ヶ月間サンフランシスコに行って、そこでゆっくりその後の人生について考えたり、アメリカの東洋医学教育の現場を見たりしてきました。

帰国後に少し時間の余裕があったので、興味を持っていた在宅医療の臨床現場を見学に行ったんです。
そのとき見学の感想文を求められたので、正直にこんなことを書きました。

「在宅医療には、鍼灸を使った方が良い場面がたくさんありました」と。

するとその感想文を読んでくれた医師たちに鍼灸に興味を持ってもらえたようで、鍼灸について説明したり体験してもらう機会をいただきました。

結果的に、試しに1年間、週1回で往診での鍼灸治療を行うことになりました。
なんと、車と運転手さんまで付けてもらいました。

はじめての訪問診療としては、ちょっと贅沢でしたね。

どんな患者さんを診させてもらったのか

在宅の現場では、それまで治療院で診ることができないような患者さんをたくさん診させてもらいました。

全身にがんが転移してしまった肺がんの末期の90歳のおばあちゃん。
この方は鍼灸をこよなく愛してくれました。

あるときこう言われました。
「わたしはもう、鍼灸治療だけでいいわよ」。

その後、医師から「〇〇さんの治療はもう今日で最後かもしれません」と言われて治療をし、覚悟して次の週に行くと持ち直していたということが何度か続いて、その医師から「島田先生は尿量が増えるような治療をしているんですか?」と尋ねられたことがあります。

どういうことかというと、死期が近づくと尿量が減るんだそうです。
でも鍼灸治療をするとその直後からまた尿量が増えて持ち直すそうです。

もちろん、おしっこが出るような治療をしていたわけではありませんが、鍼灸の本当の凄さを患者さんを通して実感しました。

交通事故にあって頸髄損傷になった小学生の治療もさせてもらいました。

治療を始めるときにその子のお母さんから「ダメ元で…」と言われたんですけど、あるとき担当していた小児科医にこう言われました。

「ふつう頸髄損傷の子は、身長は伸びるんだけど体格は変わらないから細いまんまなんです。でも〇〇君は最近、腕や脚がしっかりしてきたんですよ。これって鍼灸のせいとしか思えないです。」

そのお母さんもその話を聞いて、「そういえば鍼灸を始めてから風邪を引かなくなりました」と言ってくれました。

僕にとってはここでの治療は驚きばかりでした。

骨と皮だけになってしまってほとんど歩くこともできなくなった拒食症の女性も担当しました。

彼女の身長は156cmくらいで、体重はたしか26か27kgくらいだったと思います。
初回は主訴は全身の痛み。

鍼を刺しても、すぐに骨に当たってしまうので灸頭鍼ができなくて困りました。
伏臥位で腰の辺りを見ると、仙骨孔が体表からすべてハッキリとわかるほど痩せていました。

なんとか治療が終わった途端に、彼女は自分の部屋から飛び出して下の階にいる母親に向かって叫んだんです。

「お母さん、鍼すごいよ! いまどこも痛くない!!」

僕の治療でもこんな効果がでるんだと思って、ちょっと感激してしまいました。
その女性は徐々に体重も増えていって、1年後には自転車に乗れるくらいまで回復しました。

その他にも、普通は鍼灸院で診ることができないような患者さんをたくさん治療させてもらいました。
多い日には1日に10人も往診してたんですよ。

カルテは医師と共有でしたので、帰ってからクリニックでカルテを書いて申し送りをしました。
とにかく見るものすることすべてが新鮮で、驚きに満ちた臨床現場だったんです。

ほんとうに勉強になった1年間でした。

在宅を通して考えたこと

初めは自分の鍼灸治療でどこまで対応できるのかすごく不安でしたが、医師からどんどん患者さんを振られ、とにかくやってみる日々でした。

もちろん、それまでは経験したことがなかった患者さんの死に直面して、メンタル的につらい思いをしたりもしました。

ですけど、徐々にですが鍼灸の可能性をしっかりと感じられるようになりました。
そこでの思いや苦労を、資格取得中の学生さんにも伝えたいと強く思ったのをいまでも覚えています。

基本的に鍼灸院に通って来られるのは健康な人だけです。

でも、人は必ず死にます。
そして、その最後の瞬間まで鍼灸にできることはあるんだってことがわかりました。

患者さんを共有していた漢方の処方もしてくれる医師からは、「薬は飲めなくなったら終わりだけど、鍼灸は最後の瞬間までできることがあって羨ましい」と言われました。

同じように在宅現場で患者さんを診ていたことをきっかけにいろいろ教えてもらった仙台の医師の岡部健先生からは、「標準医療はマイナスをゼロにするだけだけど、鍼灸治療にはプラス(ホッとするとか温まるなど)があるから凄いよな〜」とも言われました。

そうなんです。
鍼灸には、もっともっとできることがたくさんあるんです。

いまならさらに食事や栄養の指導もできるようになったので、もっと患者さんの役に立てるのにと残念に思っている部分もあったりします。

ですがそんな経験をした僕が、いま分子栄養学という手段を手にして、患者さんに対してできることが広がって、より治せるようになったということを、是非ともたくさんの人に知ってほしいと思っています。

そうそう、1年間やってみた後に3人の医師たちと僕とで反省会の場が持たれました。
そのときの3人の医師の感想はそろって「鍼灸って凄いねぇ」だったんですよ。

とっても嬉しかったなぁ!

その後、そのクリニックでは鍼灸治療が定番になり、僕の治療は教え子に引き継がれました。

今回はこの辺で。

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