肺と大腸

東洋医学×分子栄養学

いつも読んでいただいてありがとうございます。

突然ですが、東洋医学では「肺は皮毛(皮膚)を主(つかさど)る」とされます。
特定の臓腑と身体の諸器官との関係性を細かく記述しているもののひとつです。

肺という臓と表裏関係にあるのが六腑のひとつの大腸なので、肺と関係が深い皮膚の状態と腸内環境もまた密接に関わっていることになります。

実際に、便秘(つまり腸内環境が悪い状態)になるとテキメンにお肌の状態が悪くなるといったことを実感されている人も多いでしょう。

もちろん、いままでの現代医学的な考え方では、肺は呼吸器系の臓器、大腸は消化器系の臓器なので、基本的にこのふたつ臓器の間にの関係性は想定されてはいません。

そんな肺と大腸が直接関係している(これを最近では「腸肺軸」というようです)という論文を目にしたので、紹介がてらブログを書いてみることにしました。

腸肺軸に関する論文

まずは論文の内容を紹介しましょう。

必ずしも新しいものではないんですけど(2019年の粘膜免疫学誌(Mucosal Immunology)掲載論文です)、「Microbes, metabolites, and the gut–lung axis(微生物、代謝物、そして腸肺軸)」というタイトルで、腸内の微生物叢と肺との間に重要な相互関係(一方向ではないことが興味深い)が報告されています。

具体的には、抗生物質などによって腸内の微生物叢の構成成分(菌のバランスや多様性のこと)が変化すると、気道における免疫応答および恒常性が変化するという内容です。

腸肺軸の重要性は、腸内微生物が発酵によってつくりだす短鎖脂肪酸(SCFA)などの成分およびその代謝物が、免疫系を整える働きをもつ重要なメディエーターとして特定されたことで、より明らかになったわけです。

さらに最近の研究では、自然免疫細胞および適応免疫細胞の主要な発生場所である骨髄において、造血前駆体に影響を与える短鎖脂肪酸の役割が指摘されたりもしています。

簡単にいうと、腸内細菌が食物繊維から発酵によって作り出す短鎖脂肪酸は免疫系にかなり影響を与えているというわけで、結局のところ腸内環境がイイと免疫状態が良くなるということですね。

もちろん腸は全身の免疫の7割を担っているわけですけど、これは基本的には腸自体の機能であって、そこに棲まう細菌群の役割としての意味ではありません。

そういう意味で、腸内細菌がつくりだす短鎖脂肪酸によって免疫機能が左右されるというのはとても興味深いことですね。

東洋医学における肺・大腸

補足になりますが、上にある「メディエーター」というのは、生物学・医学では細胞間のシグナル伝達を行う物質のことです。

最近では、臓器間のみならず細胞間の情報伝達を行う物質が次々と発見されています。 ですが、東洋医学が数千年も前に臓腑間の(表裏関係を含む)関係性のみならずその方向性などについてまで言及していたことを考えると、この医学の素晴らしさを改めて実感せずにはいられません。

腸内細菌の役割

腸内細菌(善玉菌)がつくりだしてくれる短鎖脂肪酸については、新しい腸内細菌研究分野では「ポストバイオティクス」と呼ばれています。

これはつまり、腸内細菌がつくりだす物質が生体(宿主)の健康に大いにに寄与していることがわかってきたということ。

現在、とても注目されています。

つまり最近の腸活分野では、この短鎖脂肪酸などのヒトにメリットのある物質をいかにつくりだすかということが、最終的な目標になってきているわけです。

プロバイオティクス(善玉菌を取り込む腸活の方法)という考え方で乳酸菌などの善玉菌をせっせとヨーグルトなどで摂りこんでいる人をよく目にしますが、これらの菌が腸内で定着することはほぼない(通過菌と呼ばれます)ことをご存知でしょうか。

そういう意味では善玉菌のつくりだす短鎖脂肪酸の方に注目すべきでしょう。

食物繊維が大事

もちろんこの短鎖脂肪酸は、腸内細菌が食物繊維を材料に発酵によってつくるわけで、そういう意味では現代人で非常に摂取量が減っていると指摘されている食物繊維という材料をしっかり摂ることも一方ではとても大事になります。

この腸内細菌のエサ(簡単にいうとヒトが消化できないもので、その代表が食物繊維)を取り込むことをプレバイオティクスと呼ぶのは、みなさんご存知のとおりです。

東洋医学の大腸は腸内細菌をも含んだ概念

このように考えてくると、東洋医学でいうところの腸(特に大腸)は、腸内細菌を含んだ概念だと考えることができそうです。

例えば、気血津液のうちの血が、血液の状態だけではなく血管の構造をも含んだ概念であることは、血瘀という病態で血管構造が脆弱になった結果として青タンができやすい(血管が壊れやすいという意味)という病態を含んでいることから想定できますが、腸と腸内細菌の関係性は、これとどこか共通点を感じるような概念の奥深さを感じます。

東洋医学の臓腑は、現代医学的な臓器だけを指すものでないことは、東洋医学を学んでいるものの常識ではありますが、その概念的な奥深さに関してこのような視点もあるのかなと思って書いてみました。

難しい話を色々と書きましたが、結局のところ免疫状態に関わる肺と腸内環境、特に腸内細菌の状態が密接に関係しているということになります。

ということは、病気にならないようにするために食物繊維をしっかりと摂ることが大事ですね。

最後に食物繊維を多く含む食品を紹介します。

  • 不溶性食物繊維:穀類、野菜、豆類、キノコ類、果実、海藻など
  • 水溶性食物繊維:昆布、わかめ、こんにゃくいも、果物、里いも、大麦、オーツ麦など

これらの食習慣を通じて腸内環境を整え、ひいては肺の健康も含めた全身の免疫状態を最適化することができます。

日々の食生活が想像以上に私たちの健康に影響を与えていることが、さまざまな形で分かってきています。

東洋医学の知恵と現代科学の知見を上手く取り入れて、より健康的な生活を目指しましょう。 それでは、また次回。

どうか健康で幸せな毎日をお過ごしください

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ちなみに、そんなに難しいことばかりをやっているわけではなくて、基礎的なまとめ的内容にも取り組んでいます。

これまでのテーマを挙げておきますね。

#1:1Day妊活@1/21
#2:鉄欠乏とその対策@2/11
#3:MCTオイルとその使い方@3/10
#4:症例解説@4/14
#5:ダイエット最新論文解説@5/12
#6:糖尿病とインスリン抵抗性@6/9
#7:マグネシウムの重要性と摂り方@7/14
#8:ミトコンドリアについて@8/11

ちなみに次回(9/8)は「分子栄養学的ながんの傾向と対策」です。

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